弱視の学生たちと作る!音声ガイドのワークショップ

2023.11.17
CREATOR REPORT
佐藤美晴
メディアコンテンツセンター字幕・解説放送制作部

10月、90分の授業を14回かけ、1か月間、
筑波技術大学の学生3人と共に音声ガイド制作に取り組んだ。

 


視覚障害者や聴覚障害者のための国立大学である、筑波技術大学に通う弱視の学生3人。
使用する映像は、昨年度の先輩方が作った15分ほどのショートフィルム。
ひとりの学生の、視野狭窄の世界を伝えるため、頭のなかのイメージとともに彼女の日常を描いた
『Eyeself~ワタシノセカイ~』という作品。

解説放送のノウハウを伝え、ひとりひとり、見え方の違う学生たちが取り組んでいく
音声ガイド制作をサポートするため、講師として、筑波へと出向いた。

 

 

 目の不自由な方々が、

テレビをより楽しめるように、人物の表情や動きなどを副音声のナレーションで補足する、解説放送という業務に私が携わって、ちょうど3年が経とうとするときに、
「弱視の学生が自分たちで音声ガイドを作りあげる、そんな取り組みに興味はあるか」と、話があった。

「映像を見る」ことが作業のベースになるこの業務は、彼らにとって、負担が多く、つらい時間になってしまうのではないだろうかと不安もあったが、一方で、実際に活用する側の彼らだからこそ、私たちには無い視点で、より利用者に寄り添った音声ガイドを作れる可能性を秘めているのではないか、とも思った。

本人たちが「やりたい」と思ってくれているなら、私も彼らから学びたい!

 今までに無い、

はじめての、誰も、どうなっていくのか分からない取り組みだからこそ、やってみたいと思った。
なにより、新しい環境で、新しい立場で、新しい人たちと出会う時、自分は何を感じるのだろう、どんな自分を見つけるのだろう、そういうことを、私はいつでも知りたかった。
こんなに素敵な機会は無いと思って、「やらせてください」と返事をした。

 講師という立場ではあったけど、

私たちのやり方を「教える」のではなく、彼らの土俵で、彼らとともに、授業の進め方や原稿制作、ディレクションに至るまで、一緒に悩んで考えながら、1か月間をやり切ろう。
学生たちの、貴重な時間をいただくのだから、「やってよかった」と思えるような、彼らにとって価値のある、豊かな体験にすることを、いちばん1番、大切にしたい。

事前の打ち合わせで、資料はテキストベースのものがいいかもしれないと教えていただこともあり、用意したのはWordのテキスト資料。
学生たちは、自分の使いやすい端末で、ファイルをひらいたり、メモをとったり。
どういう風に伝えたら、進めたら、と、頭の中がぐるぐるしていた私の不安をよそに、スムーズに進行できたのは、彼らが今までに蓄積してきた、様々な工夫や努力の上にあるんだなということを、忘れないようにしたいなと思った。

解説放送とはどんなものか、過去に放送された様々な番組映像を使いながら説明をする。
📢 「音声ガイドは淡々と説明する印象だったけど、日本テレビの解説放送では、番組に合わせてこんなに色々なテイストのガイドがあるんだ!」
と、新鮮な驚きを伝えてくれた。
原稿作成にあたってのポイントも具体的に説明し、最後に30秒ほどの短い映像に解説ナレーションを付けてもらうことにした。
頭で理解していても、実際にやってみると、なかなか難しい様子。解説放送の考え方を理解してもらう、第一歩となった。


今回、音声ガイドを付ける映像は、昨年度の筑波技術大学の学生が作った、視野狭窄の世界を伝える15分ほどのショートフィルム。
本編部分の原稿を学生たちが担当し、エンドロールの部分は私が担当することになった。
彼らと進め方を話し合い、シーンごとに担当を決め、ひとシーン書き終わるごとに全員で共有して意見交換する時間を設けながら、原稿を作っていくことになった。

はじめは、
📢 「自分には難しいかもしれない」
と言っていた学生も、顔を画面に至近距離まで近づけて、一生懸命に映像を捉えようと向き合う姿に、私は、ただただ尊敬するばかり。


📢 「どういう表現にしたらいいのだろう」
📢 「これを言いたいけど尺に入らない」
悩むポイントも回を増すごとに変化していった。

一度、最後まで作った原稿を、筑波技術大学の全盲の学生、解説放送チームのメンバー、ショートフィルムを作った学生たち、様々な人たちに聞いてもらい、それぞれの観点から意見をもらうことにした。
筑波技術大学の教室と、汐留にいる解説放送チームをリモートで繋ぎ、デモ収録を試みる。

汐留では、『キユーピー3分クッキング』や『遠くへ行きたい』の解説放送を担当してくださっている、声優の佐藤朱さんにご協力いただき、映像に合わせ、仮の原稿でお読みいただいた。
自分たちの考えた原稿で解説ナレーションを入れるとどのように聞こえるのか、実際に聞いてみることで、改善点がより見えてくる。


💡 沢山の意見の中から彼ら自身で取捨選択し、自分なりの考えを持って取り組む学生たちからは、教わることも多く、新鮮な気付きがいくつもあった。

最初はどういう風に関わりながら、原稿作成を支えていくか、探り探りだったけど、だんだん打ち解けていくうちに、彼らが何に躓いているか、どういう手助けを求めているのか、少し分かるようになってきた気がした。


最後は全員で、原稿を頭から確認していく。
気になる箇所、言い回し、不要な描写、大切な描写、それぞれ意見を交わし合い、学生みんなが納得したところで、原稿は完成。

📢 「自分の担当したシーンは自分がディレクションをしてみよう!」
言ってはみたけど、学生自身でどこまで何をやれるのか、未知数だったMA収録。

通常のやり方から何を変えれば「可能かも」と思えるのか。
ひとまず、キュー出しのきっかけとなる「音」を覚えてきてもらうことにした。
実際にスタジオに入ってみないことには、想像するのも難しい。

学生からは、
📢 「正直難しそう、やれるかどうか分からない」
そんな不安もこぼれていたので、担当したシーンの中でやりやすそうなシーンをそれぞれひとつ選んでもらい、出来そうかどうか、試してもらうことにした。

当日、学生たちは自前のパソコンやスマホを持ち、ディレクター席に座った。
試してみると、想像よりもはるかにスムーズに進めることができた。
スマホのメモには、「このセリフから2秒」とか、自分なりの目安が記されていて、いっぱい考えてきてくれたんだと分かる。
💡 「いけるかも!」という嬉しげな彼らの表情を見て、全部任せてみることにした。


本番、ナレーションを担当するのは、声優の永澤さん。
プロにご協力いただき収録を行う。担当のシーンごとに入れ替わりながら、彼ら自身で進めていった。
試すというのは大事だ。自分が想像している自分を、越える自分がいるかもしれない。
💡 短い収録の時間で、どんどん逞しくなる彼らの背中が眩しく思えた。


後日、出来上がったものを皆と見るため、最後の筑波へと向かった。
つくばエクスプレスも大学までのバスのなかも、なんだか感慨深くなる。
📢 「この時間が楽しみだった」
📢 「この経験が、自分の生活にも活かせそう」
📢 「こういう取り組みがまたあったら、参加してみたい」
と彼らの口から聞けたことが、何より、とっても嬉しかった。

私の方こそ、多くの学びと素敵な時間を過ごさせてくれてありがとう! と、胸いっぱいで最後の授業を終えた。

「サイトワールド」という、視覚障害者向けの総合イベントでは、視野狭窄の世界を伝えるショートフィルムを、今回制作した音声ガイドが付いている回と、ついていない回、2回に分けて上映を行った。
会場を埋めた観客の、ひとりひとりが何を感じてどのようなことを思っていたのかはまだ分からない。


 

💡 困難なことに進んで挑戦し、自ら「楽しさ」を見出していった学生たちに後押しされるように、私も様々な人の考え方に触れながら、新しい環境に飛び込んでいく姿勢を大切にしていきたい。
この取り組みが、次の「何か」に繋がるように。