パリオリンピック AX-ONリアルタイム字幕放送、深夜も早朝も大奮闘!

2024.08.28
CREATOR REPORT
深井望美
メディアコンテンツセンター字幕・解説放送制作部
会話・ナレーションを即時に文字変換して送出......リアルタイム字幕放送とは

主にスポーツや情報・報道の生放送番組を対象とし、耳の不自由な方や音の出せない環境下でも番組を楽しんでいただけるよう、リアルタイムで字幕を付与・放送するサービスです。

放送中、
スタジオでの複数人の会話やVTRのナレーションなどを、リスピークアナウンサーという、その場で耳で聞いて取捨選択・要約して再度読み上げるアナウンサーがリスピークされたものを音声認識へ通して文字変換、そして、字幕オペレーターが誤字・脱字を修正して即時に送出するという流れです。

<単語辞書登録>
生放送のため、事前に人名などの固有名詞、スポーツであれば専門用語などを音声認識のアプリケーションと誤字を修正する校正用のパソコンへ単語辞書登録を行います。
またスタッフ自身もその対象となる話題や競技の理解度を深めておき、いかに迅速にタイムラグ少なく必要な情報を届けられるかが大きなポイントの一つになります。

スポーツ番組対応......大事なのは事前準備

スポーツ番組の際には、一つの大会・競技どれをとっても選手の名前はとても多いため、特に事前の準備には力を入れています。
通常のスポーツ番組の際は、番組側から頂ける選手表や台本などの資料を元に、日本テレビでの表記に合わせて放送時のテロップと齟齬のないように準備を行います。
主役である選手達の名前はもちろん、監督やコーチ、家族、関係者など、事前に調べられるものも併せて単語登録をします。
また、出身の学校や過去の出場大会、各競技など専門用語も様々なため、過去の大会の映像を見て勉強するなど、少しでも伝えられる情報が多くなるように心掛けています。

少人数体制、新競技、差し込み放送......パリ五輪でのリアルタイム字幕チームの戦い

東京五輪の際は総勢18人での対応でしたが、今大会は去年から開始している『DayDay.』への字幕付与で人員を割かれており、13人の中から割り当てての運用となるため、少人数でどれだけ準備の時間を以前より短縮できるかを模索しながら駆け抜けました。
何よりレギュラーの『DayDay.』は朝の情報番組のため、毎朝7時スタンバイのところ、今大会は主催地がパリということもあり、真逆の深夜スタンバイから早朝までの対応となることが多く、昼夜逆転の業務に体調を崩すメンバーが現れないよう、シフト調整も検討を重ねました。

単語辞書も更新が必要なため、なるべく出場選手の情報など最新のもので作成するタイミングをはかりながら、『DayDay.』メンバーとも協力し、膨大な海外選手名の辞書作成を進めてもらい、夜にパリ五輪メンバーで再確認、東京五輪の際に作成した各競技のベース辞書をもとに、専門用語などは新しく追加せずに挑みました。

ですが、確定の資料に盛り込まれていなかった競技のイレギュラーな差し込み放送や、東京五輪の際には日本テレビで放送しなかった競技で、辞書登録が少ないものもあり、本番中に調べた単語をその場で随時追加し辞書を育てていくという場面もありました。

事前準備ができていたとしても、例えば国・地域別で最多のメダルを獲得したスケートボードの技名は普段聞き慣れないものが多く、

  • 似た響きの言葉で、「サイド」なのか「スライド」なのかを判断したり、
  • 「180」の読み方が「イチハチゼロ」「ヒャクハチジュウ」ではなく「ワンエイティー」だったりも。

また、新競技のブレイキンでは、

  • 「1990」「ナインティ」と読んだりと一つの表記をとっても複数の読み方があり、

音と正しい文字表記を結びつけるのに難しい競技もありました。

そんな中でも事前にしっかり辞書登録ができており、リスピークアナウンサーの発話から、しっかり音声認識され誤字なく文字化でき、修正もなくタイムラグを縮め放送に載せることができた時はとても嬉しく、事前準備の苦労が報われました。
そしてそれがメダルや優勝につながるものであれば、よりやりがいと感動が増しました。

今大会を終えて

今大会では、前回の東京五輪でチームでも若手だったメンバーを主体に生放送対応にあたりました。

字幕ディレクターは、かくいう私や今回一緒に各日担当した2人も、東京五輪の際はまだスポーツ競技の字幕ディレクターとしては成長段階にあり、この3年間、さまざまなスポーツ字幕に携わり、今回は前回の課題にあった準備不足や勉強不足をお互いに補い合い事故なく最後までまっとうすることができたかと思います。

また字幕オペレーターも半分のメンバーは今大会が初の五輪対応ということもあり、通常は2時間ほどのスポーツ対応のところ、4時間や5時間といった連続運用にもうまくローテーションを組み、30分ずつ交代で休憩を取り入れるなどメリハリをつけて集中力の持続をうながし、体調不良者なく乗り切ることができました。

今回、初五輪を経験した若月さん(入社2年目)コメント
通常のスポーツ番組と違い複数の競技が同時並行で進行しており、随時差し込まれる新情報への対応は大変でしたが、オリンピックならではのいい経験になりました。
また、リアルタイム字幕の作業を通して競技への理解が深まることで、これまで興味がなかった競技に対しても興味が湧くなど、スポーツの面白さを実感することができました。

次のロサンゼルス五輪を見据え、先に来たる冬季のミラノ五輪にも今回のノウハウを生かし取り組んで参ります。