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2018.08.10

NHKミステリースペシャルドラマ「満願」~アナザーワールドでの撮影

仲野尚之

仲野尚之
制作センター制作1部

    • 「万灯」で主人公の商社マン・伊丹を演じる西島秀俊さん
      「万灯」で主人公の商社マン・伊丹を演じる西島秀俊さん

      「夜警」で主人公の巡査部長・柳岡を演じる安田顕さん
      「夜警」で主人公の巡査部長・柳岡を演じる安田顕さん

      「満願」で主人公の弁護士・藤井を演じる高良健吾さん
      「満願」で主人公の弁護士・藤井を演じる高良健吾さん

      挑戦

      壮大なる挑戦だった。
      NHKで真夏に3夜連続のスペシャルドラマとして、米澤穂信さんの原作の「満願」がドラマ化するという企画だ。そもそもこの原作自体が、ミステリー小説での評価が大変高いのが故か、中々映像化ができなかった作品だった。企画の中身は、原作の6つの短編の中から「万灯」「夜警」「満願」という3作を、1時間のドラマで描き三夜連続で放送するという企画だった。

      映画系の監督・スタッフを集め、本格的なミステリードラマを三本作る。そのうちの一作「万灯」の舞台は、バングラデシュであった。そんな壮大な狙いでスタートした。しかし、バングラデシュという舞台は、ロケをするには危険という判断で、ロケ場所を再考することにした。
      そこで浮上した国は、ラオスという国だった。
      ラオスは、東南アジアにあるタイやベトナム・中国などに囲まれた海のない国。社会主義の国なので、観光やロケ誘致には未開拓なのだが、その素朴なロケーションは原作のイメージとピッタリと合致した。しかも敬虔な仏教国であり治安も良好という事だった。

      仏教国で社会主義国?およそ想像がつかない組み合わせである。
      村上春樹さんの「ラオスにいったい何があるというのですか」いう紀行文。ニューズウィーク誌のアンケートで「世界で一番行きたい国」に輝いたという情報。 何から何までミステリアスな国だった。

      ラオスはタイとメコン川をはさんだ国で、タイのロケーションサービスの会社からの紹介だった。協議の結果、治安とロケーションの良さが決め手となり、ラオスでロケを行うことにした。そして現地の主な俳優や特機や照明は、バンコクから来てもらうことになった。
      「万灯」は萩生田宏治監督、主演は西島秀俊さん、スタッフはカメラマンの近藤龍人さんをはじめとした映画系のスタッフが集結した。

    • 「満願」第1話「万灯」より、シーン写真

      「満願」第1話「万灯」より、シーン写真

      「満願」第1話「万灯」より、シーン写真

      「満願」第1話「万灯」より、シーン写真
      「満願」第1話「万灯」より、シーン写真

      アナザーワールド

      しかしながら問題点が一つあった。ラオスのロケ地が雨季に入ることだった。雨季に入ると、メインのロケ場所である集落が、雨で浸水し住人が別の集落に移動してしまうのだった。雨季に入ると言われていたのが、6月5日頃。準備を急ピッチで進め、6月1日から10日まで、ロケをする事を決断した。

      主人公伊丹は、海外で活躍する一匹狼の商社マン。伊丹は日本に天然ガスの資源をもたらすために、未開の地を訪れ殺人を犯す事になる。内容もハードだ。

      期待と不安が交錯する中、10日間のラオスロケが始まった。真夜中に羽田を飛び立ち、バンコクで7時間のトランジットを経て、プロペラ機のラオス航空に乗り2時間。
      降り立ったラオス第2の都市パクセは、まさにアナザーワールドだった。
      まずパクセでは、日本円が両替できなかった。猛烈なインフレで現地通貨キップの価値がさっぱりわからない。社会主義国家なので、コンビニなど海外資本はほとんど入っておらず、個人商店が軒を連ねる。ノーヘルの少女たちのバイクと人が乗れるように改造したトラクターと何故か高級車が道路を無尽蔵に走る。信号は殆どなく、交通整理の警官もいない。
      雨季に近い事があって、刻刻と変わる天気。舗装がままならない道路、放し飼いの牛やヤギ、豚が道路に立ちふさがる。照明に群がるウスバカゲロウをはじめとした虫。想像をはるかに越える混沌とした世界。

      しかし、到着した夜に大河メコン川に映る巨大な赤い月はこの世の光景とは思えない幻想的な風景だった。

      撮影もまた当たり前だが、日本の常識は通用しなかった。正確な天気予報は存在せず、現地スタッフの勘の方が正確であり、警察よりも軍の関係者と政府関係者が仕切る。土砂くずれや落石などの交通情報もない。
      日本とラオスとタイの多国籍撮影隊で、様々な言語が飛び交う。そして、現地の人でもあまり体験したことのない、台風並みに降り続く激しいスコールにも見舞われた。

      食事も日本人シェフに帯同してもらいケータリンクの食事を食べることを徹底していたのだが、ナゾの集団下痢に襲われる。病院にいくのだが、設備が整っておらず、食あたりとしか診察されない。(結局、日本からもってきた正露丸が一番効力があった)
      そして、トイレのない場所での撮影では、日本の工事現場で使われる仮設トイレなど存在せず、スコップとテントを調達して、自前でトイレをつくることになった。
      さらには、タイからラオスの国境を超える際に、特殊な撮影機材は入念に検査され、一日がかりで国境を越えてくる状態である。

    • 「夜警」シーン写真
      「夜警」シーン写真

      「満願」シーン写真
      「満願」シーン写真

      「満願」logo

      「郷に入っては郷に従え」

      しかしながら、日本人スタッフ・キャストも悪戦苦闘しながらも撮影を進めていった。さらに現地スタッフの献身的な仕事は賞賛されるもので、ラオスの関係者方にも本当に良くしてもらった。

      後日、主演の西島さんがインタビューに答えていたのだが、ラオスの自然は何も変わっていない。問題はそれに抗おうとするのか、受け入れてベストを尽くすのかの違いだと。あくまで、私たちは「そこに」お邪魔しているのだと。
      振り返れば、たった10日間の撮影だったかもしれない。しかし撮影隊は、天候の変化を敏感に察知し、動物と虫に囲まれても平然とするようになっていた。少しだけ、人間的にも成長できたのかもしれない。
      そんな思いになり、ラオスを後にする時は、あまりに寂しく、また再び訪れたい、そんな気持ちに満たされていた。日本に住んでいると忘れてしまっている人間としての本能を研ぎ澄ませる。そんな魅力がラオスには確かにあった。

      「郷に入っては郷に従え」当たり前のことだが、大切なことだと思った。映像を作ることは、フィクションの世界なのだが、こういった経験をさせてもらえるのは、この仕事の醍醐味かもしれない。
      そして本当に現地のスタッフには感謝の念で一杯である。
      この文章を執筆している時に、ラオスで大雨の影響でダムが決壊し、多くの被害者の方が出たというニュースが流れた。くれぐれもお見舞い申し上げます。

      こんな濃密な10日間を過ごして、日本に帰ってきたスタッフだが、「万灯」は日本での撮影を残している。まして、この原稿を書いている6月中旬時点、「夜警」(榊英雄監督・安田顕主演)「満願」(熊切和義監督・高良健吾主演)の撮影を控えている状態だ。
      放送日はもう、決まっている。走り続けるのみである。壮大な企画はまだ始まったばかりだった。

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      NHKミステリースペシャルトドラマ「満願」
      8月14日第1夜「万灯」
      西島秀俊主演・萩生田宏治監督
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      8月15日第2夜「夜警」
      安田顕主演・榊英雄監督
      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆
      8月16日第3夜「満願」
      高良健吾主演・熊切和義監督

      NHK総合 22時より23時 三夜連続放送

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    • <AX-ONスタッフ>
      制作統括 仲野尚之
      協力プロデューサー 尾上貴洋