音のない世界を伝えきるため 映像&手話&字幕の新画面構築



2024年もスポーツ&メディアコンテンツ字幕&企画戦略が力を合わせて
を行いました。
2023年の配信では、実況解説(聴者=きこえる人)の声をリアルタイムで字幕化して、映像に載せて伝えていました。
きこえない方々に、優しい中継を目指して。しかし、ろう者(きこえない人)の皆さんの文化と触れ合っていく中で、自分が大きな勘違いをしていたことが分かりました。
ろう者(★)の皆さんにとって、あくまで第一言語は「手話」なのです。
・「聴覚障害者」→障がいが起きた時期や程度に左右されない総称
字幕で内容は伝わるからいいのでは?じゃなくて...、きちんと手話で伝えたい。
それがデフスポーツを伝えきるうえで、とても重要であることに気が付きました。
そこで取り組んだのが、新画面構成です。

ろう者が手話で実況解説
⇒ 聴者が手話を読み取り声に出す(リスピーク)
⇒ その声をリアルタイムで字幕化する
※リスピークする人は、手話者の対面にいるので画面には映っていません
※ろう者が手話で実況する、その取り組みについては、後ほど企画戦略の和田さんから詳しく!
さらに!新たな取り組みは配信だけではありません。
会場内でアナウンスされている声を、場内に設置したリボンビジョンに字幕投影するのは去年に引き続き。
プラスして、会場にも第一言語の「手話」をモニターしたいと考え、実現させたものが下記となります。

一般の大会に情報保障をつけるのではなく、デフの大会に情報保障をつける。
聞こえない・聞こえにくい方々の文化を尊重した配信、大会運営を目指すこと。
デフスポーツ中継ならではの追求が、東京デフリンピックの成功に繋がるのだと、学びを得た期間になりました。
昨年のリボンビジョン字幕は日本語のみでしたが、今年は英語も加えて2か国語対応を実現しました!


音声認識を利用して日本語の場内アナウンスを文字化し、AI翻訳で英語に変換しています。このシステムの選定には、実は丸1年かかっています。
他社さんに「今の音声認識技術とAI翻訳の精度では日英同時字幕の制作は難しい」とご意見をいただくこともあった中、この無理難題に付き合ってくださったのが株式会社リコーさんの「Pekoe」でした。(「Pekoe」についてはこちらもぜひ!)字幕チームで本番想定のトライアルを重ね、次々と出てくる我々の希望要件に対応していただき、本番の2日前までシステムを調整してくださいました!


大会最終日、東京都の方や有識者の視察もありました。情報保障というバリアフリー対応にとどまらず、デフ競技を盛り上げたい!というAX-ONのみんなの気持ちで作り上げた場内演出・配信番組をご覧いただきました。


今年は、競技配信の先の実況アナを手話で行うことにしました。
キャスターをお願いしたのは「Land Hey(ランド ヘイ)」というユニット名で手話を広げる活動をしている平嶋萌宇(もね)さんと姉の沙帆さんです。

萌宇さんは、筑波技術大学(★)に通う現役の大学生で、全日本ろうあ連盟が主催した「手話言語アナウンサー・手話言語解説者・手話言語通訳者養成研修」にも参加しました。姉の沙帆さんも手話が出来ますが、萌宇さんの手話のリスピークもお願いすることになりました。
しかし、おふたりは生放送の番組で実況アナウンサーとして取り組むのは初めて。緊張や不安が大きいということで、日本テレビホールディングスのサステナビリティ事務局に協力を要請し、日本テレビアナウンサーの蛯原哲アナと渡邉結衣アナによる講義を行いました。

箱根駅伝や野球、サッカーなど日本テレビに受け継がれてきたスポーツ実況のノウハウを一つ一つ解説していただきました。
萌宇さん、沙帆さんからも「選手紹介をすることで、選手についての理解は深まるが、レースの状況を伝えるバランスはどうしたらいいのか?」など、するどい質問が飛び出しました。

蛯原アナから「事前の準備が大事!選手と少しでもいいからお話をしておくといい」というアドバイスをうけた沙帆さん・萌宇さんは、日本デフ陸上競技協会主催の陸上教室イベントに視察に行ったり、選手にインタビューを行ったりするなど準備を進めてきました。二人の取材ノートには選手の情報がびっしりと書かれていました。
最初は緊張した様子の沙帆さんと萌宇さんでしたが、徐々に慣れてくると、終始和やかな雰囲気で番組が進行しました。
解説には、2017年にトルコで開催されたデフリンピックの4×100mリレー・金メダリストで、現在は、日本デフ陸上競技協会のコーチである三枝浩基さんにお願いしました。スムーズな掛け合いで、視聴者からも「面白かった!」という声をいただきました。


制作チームでのこだわったのは、「必ず手話が表示される実況をする」こと。沙帆さん・萌宇さんが出演されない部分は、声のアナウンサーの実況を「ろう通訳」で伝えることにしました。
「ろう通訳」とは、フィーダーと呼ばれる聞こえる通訳が手話にしたものを、手話を第一言語としている方が通訳する手法です。手話は、手指以外にも、顔、肩、表情、眉等の動きにも文法があり、日本語とは別言語であることや、背景にある文化を踏まえた、より正確な表現とするため、ろう通訳が必要だということを知りました。
しかし、ろう通訳を実現するには、一度フィーダーを介すことになるので、瞬時にリアルタイムで伝えることが重要とされるスポーツ中継において、どれだけ遅れがなく手話で伝えられるのか、とても心配でした。そんな心配を吹き飛ばすように、手話通訳の方々のあうんの呼吸でほとんど遅れがなくろう通訳で伝えることができました。これは、普段から陸上で使われる用語に慣れている日本デフ陸上競技協会の通訳の方と、ろう通訳の方を派遣してくださった撫子寄合(★)のお力添えがあり、達成できたと思います。
さらに、デフリンピックを見据えて、表彰式では国際手話でも伝えることにこだわりました。国内では、国際手話通訳が出来る人が少ない中、こちらも撫子寄合にご協力いただきました。改めて、感謝申し上げます。

さらに今年は、競技場内に作った特設スタジオにて、選手のインタビューを行いました。スタジオでのインタビューを初めて受けた選手もいる中、萌宇さんの笑顔あふれるインタビューで、緊張した選手たちもリラックスした様子でお話いただくことが出来ました。

男子400mで優勝した足立祥史選手
手話での実況を実現した本大会の舞台裏については、特集として日本テレビ「news every.サタデー」にて放送されました。担当したのは、社会部で都庁担当をしているAX-ON内藤ミカ記者です。
特集はこちらのリンクから見ることが出来ます。
【デフリンピック】日本初開催「手話で実況したい」姉妹の夢
いよいよ、今年戦いの幕が上がる「東京2025デフリンピック」。 3年間の集大成として、AX-ONも大会に関われるよう引き続き頑張っていきます! また、デフリンピックがゴールではなく、これをきっかけに「きこえの共生社会」が実現するような取り組みを行っていきたいと思います。
- プロデューサー 松嵜恭宜 和田弘江
- チーフディレクター 小村直之
- ディレクター 嶋岡大輝 長木馨寛 鈴木洸佑
- ディレクター 加藤千勝
- ディレクター 外山さくら 阿部ひより
- ディレクター 石川亮 天野重麻
- プロデューサー 小潟達也 中村遥風
- キャプショナー 齋藤弥紗紀 深井望美 根本章 山野目麗 本吉亮 若月将志