視覚障害の学生と『弱視の世界』を作る!

2023.03.19
CREATOR REPORT
藤重 道治
制作センター 制作4部

視界の3%しか見えない女子大生の、残り97%は黒?
それとも瞼の裏の色?

否、3%の情報を脳が自在に組み立て直し、一輪の花が花畑となったり、ビルの隙間の青空が空一杯に広がって視界100%になると言う。

「私の見え方を自慢したい」
彼女は笑ってそう言った。

視覚障害者か聴覚障害者しか通えない日本唯一の国立大学があると初めて知った。
「先輩、筑波技術大学で弱視の学生に映像制作を教えてくれませんか?」
突然、30年前の大学時代のサークル後輩からSNSが届き、会社に社外活動の届出をして向かった。

再会後スグ、私はボスとなる後輩/准教授へ偉そうにツッコんだ。
「その大学って垣根をなくす時代に逆行してない?」
「ここは障害があっても学びやすいよう教材や環境が整えられているから、負担が少なく、すぐに学習や研究に入れる良さがあるんです。
まぁ一つの選択肢ですね。でも、いつか、どの大学でもそうした環境が整えられるといいですよね」

ボスがまぶしかった。

熱く感想を言う視覚障害の学生達

弱視の学生4名に自己紹介して貰うと、生い立ちや障害、趣味などを皆生き生きと語り、ボス了承の元、初日から90分も延長してしまった。コロナ禍で対面授業が久し振りらしい。

学生達に映像の「伝える力」について話したうえで、何をしたいか話し合って貰うと、一人の学生の視野狭窄の世界を、脳内イメージも含めてリアルに伝える映像を作り、短編コンテストに出そう!と決まった。

外出時は折り畳み式白杖を使用
バラを見ると花弁で遊ぶと言う 脳内で描く360度世界に没入する

彼女の日常と小さな夢に、他の3人の感性を重ねた脚本が書き上がると、彼女が自分の目について書いた詩の存在を告白。皆で読むと脚本にすべてシンクロし、テーマ曲にしようと盛り上がる。

学生達が普段スマホで写真や動画を撮っていたから、今回の映像を自ら撮るかと聞くと、「いい脚本ができたので、大勢の人に見て貰いたい。現場で判断できない自分たちが撮るより、プロに頼みたい」と口を揃えた。
私は、ボスに予算を確認し、それで請けてくれるスタッフを探した。

こういう時こそ仕事関係じゃないビッグネームに当たって砕けろと閃き、まず「花びらの中を女子高生が走り抜けるポカリCM」でカンヌ受賞(カンヌライオンズのブロンズ賞)したカメラマン・岡村良憲氏に、イチかバチかでお願いしてみた。
ナント快諾。やった~!!
他の技術スタッフも、彼が揃えてくれた。

 
映像を作ったマルチメディアチーム
研究者に目の構造から障害まで学ぶ
視野狭窄の主観レンズは手作り

また、弱視について学びたいと言うので、一緒に大学で視覚障害の仕組みを受講。さらに主人公となった学生本人にも聞き、彼女の目のような視野狭窄レンズを開発した。

テーマ曲は、知人から、東方神起やEXILE等の曲を手掛ける作曲家を紹介して貰う。ロケ直前に届いたデモを学生達と聞いて感涙し、短編のエンディングで曲を切らずに流そうと決まる。
エンディングの画は、主人公となった彼女の生い立ちから大学で皆と出会うまでを写真で紹介、そこから学生の撮るロケ風景に繋げると決着。
学生らの記録には、ロケ弁や雨降らし等、新鮮な感動が溢れていた。

雨降らし職人に学生は驚嘆

無事ロケが終わり、カメラマンに促されて私が編集すると、素材の良さが出ていないと酷評され、編集に小さな自信のあった私は内心ひどく傷ついたが、彼が凄腕編集マンを呼べると言うので、逆にチャンスと捉え直し、残金で招聘。果たして劇的に変わり、違いも学べ◎!
作品を良くしようと最後まで熱いカメラマンの姿勢にこそ多くを学んだ。素晴らしき哉、人生!

完成後、学生が開いた学内披露会には、主人公となった学生の母親も駆け付けた。
感想を伺うと、「娘に、障害は私の責任だから御免ね、と謝ったことがあって、娘は『この目で幸せだよ』と答えてくれたけど、ただ優しい子だなと思っていました。今回初めて、本気でそう言ってくれていたことがわかって、涙が出ました」と仰った。
また、他の弱視の学生は
「見え方が私と違って面白い!私にもポジティブ病がうつった!」と笑った。
やはり映像の力は凄いと改めて思う。

講堂で開かれた学内完成披露会

今後作品は、内外コンテストに応募後、筑波技術大学HPに掲載予定。
多くの方に見て貰いたい。