「サブスク不倫」（MBSドラマ特区）アックスオン制作に関して

セットをチェックする監督

女性による女性のための不倫ドラマを作ろう！
それは、暑い夏のはじまり。MBSさんからのはじめての発注をうけての、ミッションだった。

近年のドラマ業界、女性の進出が著しいとはいえ、まだまだ私を含めて男性スタッフが多い。特に、監督やカメラマンにその傾向が強い。ドラマの描写・演出もどうしても男性目線になってしまう。女性の視聴者は、もの足りなさを感じていたのではないか？そういった省察から当企画はうまれた。

制作陣によるキャスティング・スタッフィングがはじまった。
私が今回担当するプロデューサーという業務の大きな部分を占めるのが、この作業だ。この段階で、脱男性目線を図る。まずは主役・監督・脚本を女性で固めるのだ。

メインロケセット（鳥山家）。監督・カメラマン・助監督
差し入れ、ありがたくいただきました！感謝！（長時間の撮影現場で甘いものは嬉しいです。）

原作は、WEBコミックの不倫もの。
サブスクで不倫の沼にはまっていく主婦が主人公だ。

脚本は、国井桂さん。とりわけ仕事と家庭の間で懸命に生きる女性の心理描写にたけている。
個人的には「脚本８割」と思っている。
脚本は設計図ともいわれるが、その設計図がしっかりしていると、言い方は悪いが、誰が演じても、誰が監督しても面白いものはできる。だが、逆の場合、面白いものができた試しはない。

主人公は、佐津川愛美さん。
その豊富なキャリアで、シリアスからコメディまで幅広く演じ分ける実力者。映画もテレビドラマも、数多くの出演作がある。私も以前ご一緒させていただいたが、普通の主婦が不倫という沼にはまっていく、その微妙な心理描写を演じ分けられるのは佐津川さんしかいない。原作を読んだ時にそう確信した。
だが、それほどの実力者。オファーが絶えることはなく、それらの中で勝ち抜かないと出演は叶わない。ましては不倫モノ。イメージにもダイレクトに影響する。

そして監督、松本佳奈監督。
その繊細な表現で、ブレイク必至の演出家だ。一緒に仕事をするのは初めてだが、一度会ってこの人だと閃いた。不倫モノという際どい題材は初、監督もオファーを受けるか悩んでいた。
しかし、女性による女性のための不倫ドラマ、それを成就させるには、松本監督の繊細な演出がどうしても必要だった。受けていただけて幸いだった。

更にカメラマン、撮影現場において、監督とカメラマンのコンビは切っても切れない。ここは迫あすみカメラマンにお願いした。
アメリカに留学して腕を磨いていた迫さんの映像は視線の細やかさが魅力だ。

松本監督に迫さんのことを伝えると、興味をもってくれた。返す刀で、佐津川さんサイドに松本監督と迫さんの話をした。脚本は国井さんをアシストする役割で、弊社の女性プロデューサー・宮本を起用。
皆、不安を抱えながらも、この作品を引き受けてくれた。

衣裳合わせ。向ヶ丘遊園のおかもと技粧にて　監督・カメラマン・助監督

脚本作りにおいては、男性である自分が口をはさむのを最低限にした。
これまで大抵は打ち合わせも男性が多数派で、結果、男性の意見で脚本が作られる場合が多かったのだ。

撮影は、タイトなスケジュールの中でも大声が響くことなく、和やかな雰囲気で進んだ。
松本監督の演出は丁寧で細やか。それに的確に応える迫カメラマン。およそ男性では気にしない視点のカットが面白い・・・という感じ方自体が男性中心なのかも、と思いつつ、新鮮だった。
主役の佐津川さんは、常に笑顔と気配りで引っ張っていってくれる。

そしてそういう現場は若いスタッフも、のびのびとクリエイティブな作業に集中している。

今までの自分に思うところが多々生まれた日々だった。

制作進行の工夫として、通常より多い3種類のお弁当を準備。予算と快適さのせめぎあい...はプロデューサーの腕の見せ所？

終わってみれば、あっという間にかけぬけた撮影。
季節は猛暑の夏がおわり、秋になっていた。
少人数だったけれど、みんな素晴らしい笑顔の記念写真が手元に残った。