"韓国のEテレ"で「自主撮影ドキュメンタリー」が放送されるまでの"4分譚"

2024.03.18
CREATOR REPORT
藤重道治
制作センター制作4部
映画祭で受賞から始まった

2023年12月。AX-ONが著作権を持つドキュメンタリーが、"韓国のEテレ"「韓国教育放送公社EBS」で放送された。私の自主撮影によるものだ。
なぜこうなったのかを簡単に言うと、2021年、韓国国際ドキュメンタリー映画祭EIDF2021の企画コンペに、前年のTokyo Docs 2020で受賞したことから招待され、そこで企画戦略センターのダニエル氏とプレゼンして賞を頂き、賞金2000万ウォンと完成映画の縮尺版(48分)をEBSで放送して貰える契約を頂いたからだ。

コロナ禍のため
オンラインにて海外審査員の前でプレゼン!
質問や寸評が口々になされ、ド緊張!
閉幕後、表彰状や記念品が届き、受賞を実感!
素晴らしい通訳や翻訳をしてくれた心強い味方、
AX-ON企画戦略部のダニエルPと

でも、これが問題の始まりだった。企画応募時、受賞したら必ず完成させるかとの問いにYesと答え、予算計画書に「交渉予定」の収入見込みを書いたが、それは、映画祭に参加している審査員らが同時に世界中の放送局や配信会社や投資会社の長であり、受賞するほどの企画なら共同制作に手を挙げてくれたり、投資してくれると信じていたからだ。

固い布の表紙付き表彰状。重くて嬉しかった(笑)。

ところが蓋を開けると、「ラフカット(荒編集)を送ってくれたら前向きに検討する」と海外各社の長は口を揃えた。
結局、目前の資金は賞金のみ。自主撮影作品でも、所属会社とEBSとで契約を結ぶため、ともかく英語翻訳付48分版を期限までに作らねばならなくなった。
賞金は作品を納品するための制作費となった。

長年に渡る記録のほとんどはDVテープで、データ化20TBを超え、初期費用がかさんだ。加えて編集、新たな撮影、翻訳、テロップ、タイトルCG、作曲、MIX代等...本来なら映画版をまず作ってそこから縮尺版を作りたいと判っていても、全然首が回らない。

幸運にも大勢の一流スタッフが内容に共感し、映画化まで応援してくれながら、EBSとの契約を優先してCGを諦め、ギリギリ短縮版のみ完成!

「私的」な記録のもつ意味

海外の映画祭審査員達も近くの仲間達も、広く伝えるべきと推してくれたこの作品の内容は、非常に私的なものだった。

タイトル『The Promise』...友達との約束を、彼の死後10年経って息子に果たす物語だ。

梅津さんは愛嬌があり、人の懐にパッと入る天才だった。信頼関係が壊れたのは、やがて日本中の期待を背負った彼の変化に、私が気づけず仕事優先のマイペースを貫いたことも原因だろう。

その友達とは、撮影現場で出会った梅津正彦さん...北野作品のアクション監督として知られ、ボクシングでも多くのチャンピオンを育てた名トレーナーだ。
私達はすぐに意気投合し、新宿ゴールデン街で飲み、誕生日や年越しも気づくと二人...彼は私の家族に会うため愛媛に来るほど家族ぐるみで親しくなった。
だが、その3年後、私は絶縁される。彼に頼まれて撮り始めた南海キャンディーズのしずちゃんの五輪挑戦のドキュメンタリーが原因だった。最初は、私だけが記録担当だったが、やがて大勢の取材陣が囲む中、私だけが信頼を失って出禁となり、連絡すら取れなくなった。

絶望から半年、彼から突然電話が来て、「自己診断で癌っぽい」と冗談のように言われた。診察を促すと、「余命1年」―。
彼は改めて、「自分の生き様を、幼い一人息子に撮って遺して欲しい」と頼んで来た。

ホスピスでも懸命に指導する父の姿に息子は何を思うのか…この4日後に梅津さんは永眠した

複雑な想いを抱えながら、私達はレンズ越しの関係だけを復活させたが、再び心から友として語らう間もなく、彼は逝った。
仲直りできなかった後悔から、私は、約束と向き合うまでに10年掛かった。幼かった息子さんはもう15歳となっていた。

「梅津さんが、息子に伝えたかったことは何か?」と改めて映像素材に向き合い直した。
素直に写した記録は、想像より雄弁だった。私達の友情とそれを超える家族への愛がそこにはあった。

ただ、それは私が撮った主観的なものでもある。
私は、映像が私の視点でしかないことを伝えたく、下手でも自分の声で息子さんに語り掛けることにした。

実際にどう伝わったかはわからない。答えは何年も後に出るのかも知れない。見終わった息子さんの様子は、縮尺版には入れなかった。

韓国の視聴者からの感想がEBSの番組HPに寄せられていた

「情熱、挑戦、意志、有限性、そして永遠の愛。」 「身体はどんどん弱っていくのに精神はどんどん強くなる梅津さんの姿に、少なからず衝撃と尊敬の念を覚えた。」

Tokyo Docs で司会を担ったベルギー出身の国際的プロデューサーにも観て貰うと、長文が届いた。

今、『約束』を見終わったところだが、とても感動している。~日本やボクシングのことをまったく知らない観客は、登場人物のパワーと、女芸人とトレーナー、そして藤重さんとのユニークな三角関係に魅了されるだろう。~このドキュメンタリーに相応しい長さに拡大して欲しいと切に願う。~この物語を通じて、あなたは純粋に個人的なものを超えたメッセージを伝えている。それはすべての個人に共鳴するメッセージだ。

"生きることの本質と、人生に意味を与えるものは何か"。

今は制作費もなく身動きが取れないが、私としてはなんとか長編に漕ぎつけ、梅津さんからよく言われた「藤重さん、故郷の山形国際ドキュメンタリー映画祭に出しましょうよ!」を叶えたいと願う。

最後ですが、梅津さんとご家族、しずちゃんと関係者の皆様のご協力に心から感謝致します。