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2019.03.06

映画”雪の華” オーロラが舞う故郷で2つの国の架け橋に

ダニエル・トイヴォネン

ダニエル・トイヴォネン
企画戦略センター・企画戦略部

    • フィンランド人8人、日本人8人。
      フィンランドの最北の地の凍った川の上で16人の男が声を合わせる。

      「SEEEEENO! (せえの!)」

      力仕事のタイミングを合わせるための掛け声である日本語、「せえの!」をフィンランド人のスタッフにも教えた。
      「うおおおおお!」という声と共にフィンランド人と日本人が力をあわせ、撮影用の大きなクレーンが持ち上がる。
      あっという間に数十メートル先まで移動された。

      これは、映画「雪の華」、フィンランドでのロケの際の光景です。

      映画「雪の華」とは・・・

      中島美嘉の同名の大ヒット曲をモチーフにして制作された作品。日本とフィンランドを舞台に、余命1年の主人公を演じる中条あやみと、期間限定の恋人役を演じる登坂広臣(三代目 J-Soul Brothers)が織りなす切ないラブストーリーです。
      ヒロインの「死ぬ前にフィンランドで赤いオーロラがみたい」という願いによって、物語が展開します。
      2019年2月1日から、絶賛公開中。

    • 映画“雪の華”撮影中の筆者@フィンランド
      髭も凍る寒さ。ロケハン中のトイヴォネン

      そんな映画作りに、私は”アソシエイト・プロデューサー”として参加しました。
      フィンランド生まれのフィンランド育ちである私は昔、『男はつらいよ』に憧れて来日し、日本の大学で映画作りを習い、卒業後は日本人の同期と肩を並べてAX-ONに入社しました。入社5年目の、日本歴はおよそ10年です。
      『雪の華』に関わるきっかけとなったのは「AX-ONにフィンランド人のスタッフがいると聞いたが貸してくれない?」と外部の映画制作会社さんから指名を頂いたことでした。そんなお誘いのお陰で、準備やロケハンを含め、4カ月間故郷のフィンランドへ里帰り。こんなに長期間、故郷で過ごすのも高校卒業以来のことでした。

      そもそも、”アソシエイト・プロデューサー”とは何か?
      今回の私の役割は主に、2つの国の制作チームの間に入るクッション、というものでした。ロケ地探しから台本の翻訳、フィンランド人役者のキャスティングまで幅広く勤めましたが、その際には、それぞれの国に相手方の言葉を失礼のないように通訳し、その文化的背景も説明し受け入れてもらう必要があります。これは本当に、両方の国の文化に理解がある人にしかできない役割だったと実感。
      もちろん異国のスタッフ同士では、頭では理解してもお互いのやり方に納得がいかないことが数多くあったでしょうが、何とか無事に撮影を終えることができました。

    • 映画“雪の華”撮影現場から
      登坂さんはスタッフと違って、キャラクターの設定上は帽子も被れず、かなり寒かったと思います

      映画“雪の華”撮影現場から
      撮影期間中にも空に輝いていた緑のオーロラ

      冒頭のエピソードは、両国のスタッフの力が結集した象徴的な場面として、私の記憶に刻み込まれています。
      雪の中、撮影用のクレーンを台車で運ぶと、重みで沈んでしまう、そこで当初、クレーンを一度バラし、目的地に運んでから組み立てなおすことを想定しました。しかし、それだと3時間はかかってしまう、なんとかならないか・・・
      そこで日本人スタッフが出した案が「力を合わせれば皆で持ち上げて運べる」というものでした。そして実際、皆のチームワークでこの重機を30分で運ぶことができたのです。
      フィンランド人スタッフであるトッミさんは「信じられない!感動した!この動画を撮らなきゃ同僚のみんなに信じてもらえないよ!」と大興奮で、その様子をビデオに撮っていました。もちろん、運んでいるほうは「おいトッミ、いいから!そこ持って!重くなってきた!」と苦笑いでしたが、「皆で力を合わせ」た結果のすばらしさに感動したのでした。

      ちなみに、映画の大事なモチーフとなるオーロラ、作中で映っているのはすべてCGです。
      しかし、CG部がリアリティのあるオーロラを作るためのお手本として、「本物のオーロラ」の映像が必要でした。このオーロラの撮影を含め、冬のシーンの撮影の大半は、サンタクロースの村があるラップランド地方で行われました。最も寒い時には-30℃となる環境でロケハンや撮影を実施。フィンランド人の私でも、「寒いぃぃぃぃ」と鼻水をすすりながら絶叫するほどの寒さです。
      が、数年ぶりに見た故郷のオーロラは、息をのむ絶景。空を舞う緑のカーテンの下で、フィンランドと日本の混合スタッフで談笑しながらホットコーヒーを飲んでいた一時は大事な思い出です。

    • 映画“雪の華”撮影現場から
      左から:トイヴォネン、ラップランドのロケマネのHessuさん、フィンランド側PのSaanaさん

      映画“雪の華”撮影現場から
      夕焼けの実景撮影は長時間動けないため、寒さとの戦いです!

      さて、国をまたいだスタッフがともに仕事をしていて気づいたこともあります。
      日本人スタッフが一番驚いていたのは、フィンランドの労働組合の結束力でした。
      日本と一緒で、撮影隊はフィンランドもほとんどがフリーランスの集まりです。しかし全員がユニオンに入っていて、一日の労働時間、週間の労働日数、それぞれの役割の給与、すべてがユニオンによって定められています。一日の労働時間が10時間を超える場合、100%割増の時給に切り替わったり、週末出勤も給料が割高になったりします。労働者は、自分の権利を出張することは全く恥ずかしいことではないという考え方でした。さすが福祉国家です。
      しかし一方で、そういった事情から、低予算で良質なものを作ることがかなり困難であるとフィンランド人のプロデューサーから聞きました。

      また、フィンランドは人口が少ないため、国内の映画産業は、国家が認めたプロジェクトに支給される制作助成金に頼らなければ成り立たないそうです。もちろん政府がバックアップする企画となれば、色々な制限がかかると言っても過言ではありません。
      例えば日活ロマンポルノの様な作品の制作は無理でしょう。

      「雪の華」は、外国映画プロジェクトとしてフィンランド政府からの助成金を受けており、フィンランドで使った映画制作費の25%が還元されるシステムです。その他、映画制作で使ったお金に関して税金が免除されたり、道のロケ場所などをフィンランドの公務員が長期間抑えてくれたりするなど、海外の制作会社に対する待遇はかなり手厚いと感じました。

      ヨーロッパでは最近、このような免除や助成金を狙って隣の国に渡って映画を撮影するというケースが増えています。フランスのチームでドイツに行って撮影したり、ドイツのチームでアイスランドに行ったり、色々な面白いドラマや映画プロジェクトが生まれています。

    • 映画“雪の華”撮影現場から
      雪が1メートル以上積もっているところでも、凍った川の上だけ雪の量が少ない。

      この面では、日本が遅れていると言われています。国家の助成金もなければ、労働者の賃金も他のアジアの国と比べれば高いので、日本の宣伝になりうる海外の映画プロジェクトは、アジアの他国に流れる場合が多いそうです。

      それでもAX-ONのヨーロッパでの映像制作へのハードルは、この数年でかなり下がっていると感じています。
      番組や映画を制作する場合、行き先の助成金制度をよく調べることをおすすめします。
      日本の連ドラの撮影で海外を歩き回る時代も、そう遠くはないはずですから・・・。
      そして自分のような他国出身者が、橋渡しの役割を果たすことで、AX-ONだけでなく日本の映像コンテンツ・映像コンテンツ業界全体が世界で存在感を示し、日本の文化、存在そのものをも世界に流通させていくことができれば、と考えています。

      タイトル画像:ロケ場所の一つ、パラス山。